約 5,047,794 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/670.html
戦うことを忘れた武装神姫 その24 最近、正式に「ムサコ神姫センター」との名称になった、M町のセンターの 3階にある大型筐体・CMU-381-M2。 いわゆる草リーグではあるが、中では2vs2の激しい戦闘が繰り広げられて いた。真夏のような草原フィールド、宙を飛び回るダブルツガルに対するは、 ストラーフと猫爪の組み合わせ・・・そう、かえでの神姫。。。 手が加えられ、より軽量となっている装備を活かし、速度で勝負を仕掛けて くるダブルツガル。 対するは、戦略のティナと経験のフィーナ・・・。 開始時は圧倒的な速度に押されていたかえでの2人だったが、やがてティナ が相手の弱点 -装甲の薄さ- に気づき、情報を受けたフィーナはアームの指 先を外して待機。ティナが囮になっている間に、フィーナは草原フィールド の起伏により死角になる位置へと移動した。 「-Tへ。セット完了。」 「-Pへ。-T、了解。あと7.5sで到達。」 「-P、了解。」 短いやりとりをすると、ティナは四脚にてフィーナの潜む窪地へと一直線に 駆け出した。 後を追うは、HEMLを両の手に構えたツガル2体。 脚力には定評のある猫爪ではあるが、空間を一直線に移動できるツガルの方 が、当然速く移動できる。 間合いが詰まる。 2体のツガルは、照準をティナの背中に合わせた・・・ その瞬間。 窪地から、ツガルたちの目前に10個の小さな黒い物体が放り出された。特殊 鋼材でできた、フィーナが自らのアームから取り外したアームの指だ・・・。 速度を求めるがあまり、装甲を減らし過ぎたツガル2体は、自慢の速度が仇 となり、突如出現した固い物体を避けることが出来ず、全身に思い切りブチ 当ててしまった。 「衝撃は速度の二乗に比例しますから、それに見合った性能の対衝撃装甲を するべきにゃのです。」 見事撃墜され、目前に落ちてきたツガルの2人に、静かに語りかけるティナ。 「チームワークも、速さも照準も申し分がありません。ですが、装備に関し ては、今一度考えた方が良いでしょう。」 フィーナはちらばる指を拾い集め、元の通りにアームへ組み付ける。 「それだけの能力、装備で殺してしまうなんて・・・」 「もったいにゃいですよ?」 2人の余裕の様子に、白旗を揚げるツガルコンビ。 「勝者、ティナ・フィーナチーム!!」 ジャッジマシンが勝利を告げた。 土曜の午後、けっこうな人の入りの中、 わき上がる拍手。ダブルツガルのオーナーと握手を交わし、互いの神姫たち の健闘をたたえるかえで。 2人の周りには、顔見知りとなった仲間たちが 集い、話に花を咲かせる・・・。 ・・・今やすっかり川崎家の一員としての生活にも慣れたフィーナ。 普段は、かえでのちっちゃいお目付メイドとして、ティナと共に、いわゆる うっかりさんのかえでを冷や汗混じりでフォローする毎日。 だが週末には、 自らの存在を確認する意味でも、一戦は必ずこなしているとか。 一方のティナはといえば、フィーナに稽古を付けてもらい、また自ら研究を 重ねたことで、猫爪にしては大変に珍しい「頭脳格闘派」として名を馳せて いた。 とはえい、基本は猫爪、ネコネコしい事に変わりはないのだが。 一時期、引きこもりがちになったかえでに、そっと父親が渡したもの、それ が猫爪型武装神姫。。。 所詮は大人向けのおもちゃ、そんな気持ちで起動させた。 静かに起動する ちっちゃい仔猫。 好きだった絵本の主人公の名をとり、ティナと名付け、 傍らにポンと置いた、それだけの存在だったはずなのに。 戦う格好をした 人形、ただそれだけだったはずなのに。 いつの間にか、自分の生活に溶け込んで、 いつの間にか、当たり前の存在になり、 いつの間にか、無くてはならない存在になっていた。 この子がいるから、頑張ってみようと思う。 この子が応援するから、あと 一歩を踏み出そうと思う・・・ 気が付けば、だれとでも話せるように なった自分が- 。 そんなときに起きたあの事件。 かえで自身にとっても、大きな転機となった。 ちっちゃいけど、精一杯がんばる神姫の姿。 それは、ヒトが作りし、ちっちゃい心。。。 「かえでちゃん、どうしたの?」 「あ、ごめ〜ん。ちょっと考え事していて。」 神姫仲間の一人に声をかけられて、はっと我に返るかえで。 フィーナに 引っ張られるように始めた神姫バトル。 今では、ここに週一回来ることが 楽しみでならない・・・。 ここに来れば、同じ志を語り合える「仲間」が 待っているから- 。 「そうだ、かえでちゃん、推薦で大学決まったんでしょ?」 恥ずかしそうに、かえでは顔を赤らめる。 「えー? 何で知っているの?」 「この前フィーナちゃんが言ってたじゃない。 えーっと・・・」 「T工大。Dr.CTaさんみたいになれればいいな、って思って。」 私に道を開いてくれた、ちっちゃい存在。 自分にだって、造り出せるはず- 。 「へぇ、それはすごいねぇ。」 いつの間にか話に加わっていたムサコの店長が口を挟んだ。 「て、店長さんまで・・・。」 「お祝いってわけじゃないけど、これをあげよう。・・・使うかな?」 と、手渡された小袋。開けるとそこには神姫サイズのメイド服。ブランドは TODA-Design、しかも Battle Use ONLY とデカデカと書かれている。 「いいんですか? 頂いちゃって・・・」 「どうぞー。 先週だったっけ、君たちと話をした、CTaさんじゃないコス プレのねーちゃんがいたろ、ハウリン連れた。あの人が戸田さん本人だった んだよ。 で、戦うメイドって言葉が似合うから- 、って作ったんだとさ。」 「はぁ・・・嬉しいのですが、ティナはともかく、フィーナがどう言うか。」 「私がどうかしましたか?」 ツガルたちとの話が一段落したのか、ひょっと顔を出すフィーナ。 「こういうの、着る?」 かえでが広げた服に、一瞬目を丸くするフィーナ。 「イヤです、といっても、マスターもしくはティナに無理矢理着せられるの がオチでしょう。。。」 「・・・イヤなの?」 が、フィーナはすぐにいつもの笑顔に戻った。 「ふふ、ウ・ソ・です。 こういうの、私好きなんですよ。」 まだツガルたちと話をしていたティナを呼び、2人で袋にはいるとごそごそ と着替えを済ませ、出てきたときには・・・ マシンガンが似合いそうな姿 のメイド神姫になっていた。と、横から仲間の一人が言った。 「やっぱ、二つ名は『戦うメイドさんズ』でいいんじゃないですか?」 ふたたびわき上がる拍手。 対戦相手のマスターも、ダブルツガルも拍手を している。その暖かな輪の中で、嬉しそうにクルクル舞うティナとフィーナ。 「どうです? マスター。 似合いますか?」 「かえでちゃん、見てみて! ここに隠し武器があるの!」 その姿に、かえでは心の底からうれしさがこみ上げてきていた。 気が付けば、いつも仲間がいる。 もう、寂しくなんかない。 だから、決めたんだ。 いつの日か、仲間をつないでくれた、 小さな存在を、自分が神姫を作るんだ、と-。 <その23 へ戻る< >その25 へ進む> <<トップ へ戻る<<
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1745.html
今日の授業も、MMSを使った犯罪がテーマとなった。 社会問題となっているMMSによる犯罪。 MMSはそのサイズと価格から、犯罪に使われやすいようだ。 そんなことはどうでもいい。それよか今の僕は懸案事項を抱えているのだ。 「形人、弁当食わないなら俺が頂いちゃうぞ?」 見た時、風間はすでにダシ巻き卵をつまんでた。 「おいこら! 人の楽しみを盗るな!」 僕は風間の手を叩いた。 懸案事項とは、この間の大会で入手した武装神姫一式を指す。 それのセットアップをしなければならない。 ちなみに風間の賞品はグレースと同じVulcan Lab製のイルカ型神姫「ヴァッフェドルフィン」だとか。 このパターンでいくと、僕の賞品はヒカルと同じMagic Market製のマーメイド型神姫「イーアネイラ」のはずなんだが…。 目の前にあるのは、武装神姫の有力メーカーの一つである「Kemotech(ケモテック)」の武装神姫。 猫型神姫の「マオチャオ(漢字で『猫爪』と書くらしい)」であり、 受注生産モデルの、リペイントバージョンでもある。 ……… くぅぅぅぅぅぅぅぅうっ! 欲しかったんだよなぁ…これ! 「武装神姫2036」というタイトルの漫画がある。 それの主役神姫、マオチャオの「まお」が海のエピソードで披露した水着リペイントを再現した物である。 これと、ハウリンの「凛」を再現したリペイントモデルの人気は、尋常じゃない物がある。 何しろKemotechのサーバがダウンするほどの予約が来たのだ。 限定の予定だったにもかかわらず、受注生産となり、なおかつ現在も入手できなくて泣きを見る武装紳士もいるとか。 個人的には凛の方が良かったが、実質どっちでもいい。 クラスでも持ってる奴はいない、自慢できるしなお且つ通常のマオチャオより「萌える」! 「形人!!」 はっ!? しまった、嬉しさのあまり別の世界に逝ってたようだ。 「すまん、ヒカル」 「もう…!」 えっ…と。 もしかしてヤキモチ妬いてますか? ヒカルさん。 …んな訳ないか。 ~・~・~・~・~・~・~ … …… ……… 大きな目を開き、欠伸をかくリペマオチャオ。 そしてこちらを見つつ一言。 「あなたがボクのマスター…ですよね?」 …… うそっ!? 「まお」の口調じゃないだろ! これって! つーかボクっ娘!? 「うわはぁ…」 ヒカルも「2036」を読んでいるので、呆気にとられている。 確かに、これじゃ「ステキバグ」で中身が「凛」と入れ替わった時と同じデハナイデスカッ!? 「あの、「個体差」がありますから…」 「つっても正反対ってどうよっ!?」 「そんな事言われても…」 …… 落ち着け、クールになれ彩聞形人。 ~・~・~・~・~・~・~ 「あ、ペットネームはどうしましょうか?」 パニックが収まると、洞察力が戻ってくる。 こんなに素直で、なおかつ凛々しくて、ついでに高確率でオドオドしちゃうまおって… 萌える! …自重しろ、僕。 ペットネーム(実質その個体の名前)か…。 外見まおだけど中身は凛ぽくって、それでいて……。 「あのぅ」 「そうだなぁ…」 ちょっと深く考え、リペチャオにビシッと人差し指を向け 「ジーナス、でどうだ?」 ジーナス、とは。 英語で「天才」を指す単語らしい。 ついでに、「超時空要塞マクロス」の登場人物の姓でもある。 天才そうな印象と、少し天然ボケだとゆう電波を受信し「形人!」 …はうっ!? また少し向こうに逝ってたようだ、自重せねば。 単純に、ヒカルと元ネタを合わせただけだから、安心して欲しい。 「『ジーナス』、ですね?。ペットネームとして登録しても宜しいでしょうか?」 「オーケーだ」 登録完了、今からこのリペチャオは「ジーナス」だ 「それでは、よろしくお願いします。隊長」 「へっ?」 ちょっと待て。 そう言えばオーナー呼称を決めていない。 「本社の神姫は、名前の元ネタ…もといその名前に合わせた呼称を、自動で決定します」 はぁ…? 「『ジーナス』と言う単語は『隊長』に分類されるので、この呼称に決定しました。ご了承を、隊長」 …さすがKemotech、ネタ仕込みを忘れない企業だ…。 「あら、新しい神姫(こ)?」 「そ。この前の賞品」 買い物に行っていた母が帰ってきたので、顔通ししとく。 「ジーナスといいます、よろしく」 「ご丁寧にどうも。私は彩聞令佳(さいもん れいか)。形人のお母さんよ」 「あ、こちらこそ。どうぞよろしくお願いします、お母さん」 どっちも丁寧同士だ。 この二人って、何か息が合いそうだ…。 「んー。ところで…、ジーナスちゃんに夕飯のお手伝いをさせていいかな?」 ~・~・~・~・~・~・~ その後の話を一つ。 その日の夕食は煮込みハンバーグだったのだが 「中身の玉ねぎ、刻んでくれたのジーナスちゃんなのよ」 機械にでも掛けたかのごとく均等に切り刻まれた玉ねぎ。 言っとくが、うちには包丁しかないぞ。 ていうか待て、危なっかしい発言をしないでくれお母さん。 「ついでに、味を決めたのもジーナスちゃんで…」 皿に乗ってるハンバーグを見る。 「悔しいけど、私より美味しいわ…」 ハンバーグを咀嚼しながら、母が言う。 主婦歴22年のお母さんが、起動後数時間のジーナスに負けるとは思えないのだが。 しかし、ここである事に気付く。 「お母さん、肝心ジーナスは何所に?」 ~・~・~・~・~・~・~ 「め、目がぁぁぁ…目がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 目を抑えつつ悶えるジーナス、お前はムスカ大佐か。 玉ねぎが目にしみるって…、無駄に精巧だ。 「治りません…、痛いです…」 安心しろジーナス、明日には治ってると思うぞ。 ジーナスが料理の天才だと言う事は判ったが、新たな懸案事項を抱える事になった。 ジーナス用のゴーグルを買ってやらんといかんなぁ…。 まあ、明日という事で。 流れ流れて神姫無頼に戻る トップページ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1286.html
最新の技術──あるいは公式の武装 さて、我が店“ALChemist”はMMSショップである。ともなれば、当然 一般流通している神姫や、時には一部の限定品も販売せねばならん。 が、ただ売るだけでは面白くない。客のオーダーに合わせて、武装を 寄せ集めて全く別の神姫に見立てたり、改造や調整もこなしている。 『というわけで、晶さんにはウチのサオリに着せる第六弾の装甲を!』 『公式の武装をメインフレームにしつつ戦闘法に合わせた調整を、か』 『そそ。そもそもサオリ自身を調整してくれたのも晶さんだしね……』 こういう経緯で私・槇野晶が引き受けた仕事も、その一環である。一応 アフターケアの意味も兼ね、私に武装調整のお鉢が回ってきたのだな。 そして眼前には、梱包から取り出した第六弾の武装パーツが存在する、 今からコレを、神姫・サオリに適したデザインと能力に改造するのだ。 ちなみにサオリとは、突撃癖のあるエセ中華娘の限定版ストラーフだ。 「……むぅ。新作公式パーツの検分は、毎度の事だが驚きの連続だな」 「マイスター、お茶が入りましたよ~♪……って、それは第六弾の?」 「む、その通りだアルマや。客の依頼で、これを弄る事になってなぁ」 「確か、ティグリースは白兵戦特化でしたっけ?ほら、この剣は……」 「有無。通常型とはいえジョイント満載で変形もする、なかなかだな」 “朱天”を初めとした十一に及ぶ“寅の爪”は、そのまま彼女の戦法を 表現している。一方で背に背負うブースターも、素晴らしい飛行性能と 高い防御性能を備えた業物であるらしい。二種類の合体形態……即ち、 小型パワードアーマー“真鬼王”とヴィークル“ファスト・オーガ”を 思えば必然とも言える前のめりな性能であるが、技術に驚かされるな。 「一方でウィルトゥースは……なんだ、やけに重火器が豊富だな?」 「脚部は電磁推進ポッドですし、戦い方としては空中砲台ですの♪」 「お、起きたのかロッテや。見ろコレを、粒子ビーム砲まで有るぞ」 「実弾・エネルギー、両方とも充実してて……にしても物騒ですの」 「有無……粒子ビームを大気中に発射出来るとは、凄まじい技術だ」 何らかの形……恐らく保護フィールドか……で放射線や直進性等の問題を 解決しているのだろう。原子力発電や物理学実験等からのスピンオフか? 単純な威力だけでなく技術面からも、彼女の“インフェルノキャノン”は 驚嘆に値する特殊兵器だった。それは同時に『改造出来ない』装備という 証左でもある。精々、ジェネレータの出力を推進機関に融通させる位か。 「……で、これらの合体で誕生するのが“巨人”と“鉄騎”なんだよ」 「む、片付けは終わった様だなクララ……そうらしい、合体機構だぞ」 「公式にミキシング……というか合体をサポートするのは初めてかな」 「“ファスト・オーガ”では、全出力をホバー走行に注ぎ込めますの」 「“真鬼王”は、浮遊移動の俊敏さとパワーを両立させた、巨人……」 私と三人の“妹”達は、試しに忌むべき“神姫の王”を見立ててみた。 そこから見えてきたのは、まざに神姫をコアとした戦闘モジュールだ。 二人分のパーツを要する為に、軽量級のレギュレーションだとなかなか お目には掛からないだろうが、そのカタログスペックは非常識だった。 「このパワーは、チーグルをも上回るなッ!持続時間は短いが……」 「疲弊した所にこれで攻め込まれたら、大半の神姫は苦戦するもん」 「そう言う意味ではわたし達の“アルファル”も、近い設計ですの」 「コレと戦えるのは、“ギガノイド・フィギュア”しかないですね」 「驚愕だな……一方の“ファスト・オーガ”も組み立ててみるか!」 もう一方の合体形態“疾く走る鬼”は、神姫素体との連動機能を必要と しないので、そのままダイレクトに組み立てて、ロッテを乗せてみた。 「よし、では火を入れてみてくれ。これでブースターの性能が分かる筈」 「はいですの~♪……お、おっとととっ!なかなか速いですの~ッ!?」 「凄い小回りと飛行性能なんだよ。公式でこれだけの物は初めてだもん」 「でも噂だと、地表走行では第七弾の二機種が更に上を行くそうですよ」 「技術は日進月歩と言われるが、ここまで先鋭化するとはな。流石だ!」 そして、ロッテの姿を見て私は思いつく。この莫大な推進力と防御力を 活かして、突撃戦に特化した走行を見立ててやるのもいいかもしれん。 それと同時に、私は“妹”達への新たな欲望……誓いを思い立つのだ! 「有無。この案件で習得した技術等は、お前達に反映せねばならんな」 「新しい装備ですの?“重量級”なら分かりますけど、軽量級は……」 「分かっている、新しい物を増やす訳ではない。マイナーチェンジだ」 「……つまり外見や基礎機能を変えずに、能力を向上させるのかな?」 「日々進歩する“姉妹”達に打ち克つには、そういうのも大事ですね」 「そう言う事だ。お前達の修練と私の技術革新、それが勝利の鍵だ!」 ──────歩みを止める時は、まだ来ないからね? メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1638.html
前を見た少女と、煌めく神の姫達(その一) ──もう、手放さない。滅びが分かつまで、愛しき姉妹と共に生きよう。 “妹”達の笑顔の為ならば私は尚の事、己の全てを神姫に捧げていこう。 それが……共に歩んでいく彼女らに対し、私が捧げられる“誓い”──。 第一節:訣別 “悪夢”の暴威が去った翌朝。私・槇野晶は、朝一番の電車で出かけた。 行き先は東杜田技研。勿論“四人の妹達”……アルマとロッテ、クララに 昨日から加わったエルナも一緒だ。但し、彼女らは目を醒まさない……。 あまりに受けたダメージが大きすぎたのか、一様に酷い不調を訴えてな。 なので私は、ありったけの修理用部品を持って東杜田技研を頼ったのだ。 「……私を置いて逝くには、まだ早いよ。まだ、色々あるんだから……」 「晶ちゃん?おーい、あーきーらーちゃーん?何ブツブツ言ってるのさ」 「どわっ!?げふ、げふっ!ど、ドクターではないか何時からそこに!」 「ん?たった今。一通り終わったから、再起動前に色々説明したくてね」 ベンチに座って祈っていた私は、掛けられた声に素っ頓狂な声を上げる。 ……聞かれなかっただろうな?この“言葉”は、あまり出す物ではない。 ともあれ私の眼前では白衣姿のDr.CTaが、マスクをくるくる回していた。 悲壮感のない表情からすると、“手術”自体は成功した様なのだが……。 「ドクター、どうなのだ?私の“妹”達は無事か、無事なのかッ!?」 「はぃドードー。焦っちゃって晶ちゃんらしくないぞ?落ち着けー?」 「む、す……すまん。色々とあって……私では直し切れなんだのでな」 そう。私では手が出ないレベルの修理や改造も、色々と必要だったのだ。 そう言う経緯もあって逸る私を、Dr.CTaは宥めながら別室へと案内した。 そこは、処置室を外部から観察する為の……硝子張りの部屋だった。目を 少し下に降ろせば、作業台の上には少々痛々しい姿の四人が眠っている。 「んー、まずは……ロッテちゃん達三人の方から説明しようかなっと?」 「宜しく頼む。特にアルマとクララは、奇妙な病を起こしているからな」 「それも多少分かってるさ。まぁとりあえずは……皆、酷い損耗だねぇ」 「これがカルテか……全員四肢のモーターが焼き切れている、だと!?」 「そそ。一体どこでこんな無茶させたのさ晶ちゃん、って位の重傷だね」 ドクターが示したマイクロマシン用検査器具のログを見て、私は戦慄く。 何と、ロッテまでも含めた“三姉妹”全員の駆動系が焼損していたのだ! ヴァーチャルフィールドで起きていた筈の出来事なのに、どういう事だ? 「むぅ……ヴァーチャルフィールドで、相当無謀なバトルをしていたが」 「じゃ、そのセンかな?“何か”の影響でフィードバックした情報がさ」 「有無。知らず知らず、皆の躯を突き動かしていたのか……しかしなぁ」 「超AIやCSCも、あちこち傷があったからねぇ。可能性は大きいよ」 ログには確かに、アルマとクララのCSC……そして皆の超AIに相応の 負荷が掛かっていた事を示す値が印されている。一部は、結構深刻な傷と なっていた様だが……Dr.CTaは、その処置もしっかりとしてくれた様だ。 物理・論理……両方の傷を癒し皆の命を維持する、見事な“技”だった! これほど完璧に修復されているのならば、当面は安心して良さそうだな。 「なるほど……こんな方法で修復したか。流石は手練れの“技術者”だ」 「結構離れ業だったけどねー。でも、何したらこうなったのさ本当に?」 「そうだな。ドクターには話してもいいだろう、これまでの恩義もある」 それに報いるべく、という訳でもないが……私は起きた事の全てを語る。 エルナの正体、彼女を止める為に挑んだ大一番。そして事後に襲来した、 あの“悪夢”を。それを聞き、彼女の表情は少し引き締まった物となる。 「へぇ……テロなんかの為に、MMS……というか神姫をねぇ。外道だね」 「外道と思うが、彼女……“ロキ”だったエルナの否定にはならんぞ?」 「そりゃそーだね。エルナちゃんは愛されたかった、それだけだろうし」 「そのエルナは、注文通りにやってくれたか?違法な部品の撤去と……」 「皆まで言わなくて大丈夫。塗装以外は、“姉”を参考にやっといたよ」 固定武装と“武装神姫”のレギュレーションを越えた部品の撤去、それに 伴った、私の持ち込んだ部品による修理。他にも色々と注文を付けたが、 それを言い連ねようとした私を制する形で、彼女はその成功を裏付けた。 「そ、そうか。それなら何よりだが……そう言えば、エルナの様態は?」 「アルマちゃん達以上に酷かったよ。もう少しでバーストしたかもねぇ」 さらっと言ってのける辺りはドクターらしいが……本当に彼女は、破滅の 寸前だったのだ。どうにか助けられた事に、私は改めて胸をなで下ろす。 そうしていると、彼女は私の前で唸り始めたのだ。とても神妙な顔でな。 「しっかし、“悪夢”と“約束の翼”ね……神姫の“心”の力かな……」 「……どういう事だドクター?チェックの過程で、思い当たる節でも?」 「大体ねー。まずは“悪夢”だけど、これの大元は普通のウィルスだよ」 「何?普通の……と言う事は、コンピュータ用のワームウィルス辺りか」 「うん。八割位壊れてたけど、“変質”したコードの残滓は見つけたさ」 Dr.CTaが語る所によると、エルナの……殆ど破損した……補助記憶装置と アルマ・クララの現行型CSC三基に、そのコードが残っていたらしい。 だが、元となるウィルスはMMSの超AIやCSCを侵蝕する類ではない。 しかし調べた限りでは、機能が激変する程の“改竄”が見られたそうだ。 「……でも作った連中がそこまでやったとは考えにくくてさ。となれば」 「エルナが憎悪を膨らませる過程で、知らずに己の“毒”を精錬した?」 「あたしゃそう睨んでる。で“約束の翼”だっけ?これは“ワクチン”」 「“ワクチン”だと?だが、対コンピュータ用のワクチンソフトは……」 「入れないね普通。でも、あの透明なCSCにあった物は間違いないよ」 首を捻りつつ、私は推論する。ひょっとしてアレは“ワクチン”ではなく “抗体”なのではないか?“プロト・クリスタル”にのみ発生したという 指摘を踏まえると、歩姉さんが遺した“大いなる遺産”かもしれないが、 私の知る限りでは妖しいルーチンは存在しない。となれば“悪夢”同様、 三姉妹の“心”が繋がった事で産み出された“即興詩”なのかもしれん。 「で、問題は……どっちも破損して動かない事と、規約に引っかかる事」 「つまり、各々のデータを遺すか消すか。選択しなければならんのか?」 「そーなるね。起動してないのは、確認しときたかったから……でもさ」 「む、何だ?調査用に別個コピーしておこうという考えでもあるのか?」 「んにゃ、殆ど壊れてるから解析は無理さね。第一、エルナちゃんって」 『神姫として生きていくつもりなんでしょ?』と笑ってみせるドクター。 聞けば、なんと彼女はその小さな胸に三個のCSCを備えていたという。 そう……エルナの身体構造は基本的に神姫と酷似しており、今回の修理で 完全にオリジナル型神姫として通用する躯になっていたのだ。故にこそ、 唯一公式バトルに出る際の障害となる、残存データの処遇が問題となる。 「……分かった、消してくれ。未来を歩む彼女らには、最早不要だろう」 「オッケー、じゃ早速やってくる。動作チェックが終わったら完了だよ」 「本当に済まないな、ドクター。この埋め合わせは、何れ必ずしよう!」 「ホント?それじゃ今度、お言葉に甘えちゃおうかな。にっしっし……」 楽しそうな笑顔を浮かべて、彼女は部屋を後にした。そう、未来に向かう 四人の“妹”達……そして私に“悪夢”は、もう要らない。そして過去の 残滓も、最早無用の物。歩姉さんの遺志を受け継ぐ“遺産”は、現状でも 十分にある。私達は、ある意味過去と“訣別”する事を選んだのだ……。 「歩姉さん、クリスティアーネ。私達を見守ってくれて、有り難う」 ──────そして、さようなら。志は、大切に受け継いでいくよ。 第二節:姉妹 東杜田技研を後にして、私はMMSショップ“ALChemist”へと戻ってきた。 今日は当然ながら臨時休業。私は出来た時間を最大限使い、“四姉妹”の 補修で痛んだ素体塗装を復元する。無論エルナも、全身の修復された痕を 隠す為、菫色と肌色をベースとした物に変更する。作業はすぐ終了した! 「ふぅ……よし、これでいいだろう。さぁ皆、目を醒ましてくれよ……」 「チェック……OK──ん、ぅ……あれ、ここはお店の作業台ですか?」 「……そうみたい、なんだよ。頭もスッキリしてるし、躯も快調だもん」 「戦闘後は具合悪かったですけど、今はちゃんと治ったみたいですの♪」 「うむ。おはよう、皆……そして、連戦本当に御苦労だった。見事だぞ」 アルマを初めとして、ロッテ・クララと火が灯っていく。徹底的に全身を 検査・修復された三人の表情は一様に明るく、私に微笑んでくれた。だが 今日からはもう一人……皆の笑顔を受け微笑むだろう娘が増える。そう、 まだ敢えて電源を入れていない、“五女”にして紫の姫・エルナの事だ。 「さ、服を着たら皆で見に来てくれ。この様な感じになったがどうだ?」 「わぁ……綺麗ですの~♪マイスター、早く起こしてあげて下さいの!」 「急かすな。皆、大丈夫だな……?よしっ、では始動コードを……っと」 「──────ジステム、グリューン……機動……ん、躯が軽いわね?」 『おはよう、エルナ!!!!』 急かすロッテに動かされる形で、私はエルナを目覚めさせた。そして…… 服を整えてから皆で挨拶をする。彼女は、不思議そうに自分の躯を眺めて 手を握ったりしていた。だが、裸となっている為か……妙に艶めかしい。 更に“姉”とお揃いの“琥珀色の瞳”も、菫色の髪に映えて輝いていた。 「お、おはよ……お姉ちゃん達。アタシのこれ……どうしちゃったの?」 「有無。やはり非常にガタが来ていたのでな、彼方此方を改修したのだ」 「エルナちゃん、あのままの武装だと法に問われそうでしたからね……」 「……その武装、然るべき機関で処分してもらったのかな?マイスター」 「ああ、Dr.CTaにお願いしておいた。彼女ならば、確実だと思ってな?」 「そう?……アタシの過去が消えた訳じゃないけど、スッキリしたわね」 そう言い、エルナは微笑んだ。彼女もあの濃密な一日を経て、己の過去に 一区切り付ける事が出来たのだろうな。これならば前田達が見咎める事も 最早あるまい。後は私達の“妹”として、嗜みを教え込んでいくだけだ。 「有無。その躯は戦う為だけではなく、少女として身を飾る為にもある」 「身を飾る、って……ロッテお姉ちゃんやマイスターみたいに、服を?」 「そうですの!わたし達、マイスターの作ったお洋服が大好きですの♪」 「無理矢理好きになれ、とは言わぬ。服を着る習慣もなかったろうしな」 「でも、あたしも慣れてきた時……“心”が踊ったんですよ、とても?」 「大丈夫。エルナちゃんにもきっと似合うんだよ。丁度、一着あるしね」 クララは気を利かせて、自分の衣装箱……の隣に置いてあったケースから 服を一式運んできた。そう……春新作の“Electro Lolita”、その最後の 一着──“菫色”のドレスだ!まさか、着る者の居なかった“四着目”が この様な形で充足されるとは思いも寄らなかったが……運命は、面白い。 「え、ええと……アタシに、そんなの……その、似合うのかしら……?」 「それは私が、そしてお前の“姉”達が保証する。さ、着付けてやるぞ」 「ええっ!?そ、そんなの大丈夫よ!その、えと、あの……はぅぅ!?」 私に着せられる事に、最初は物凄く戸惑ったエルナ。だが、服飾の構造を 理解出来ない彼女は、渋々私に身を任せる事となった。その仕草は……! 「ぅ、うぅっ……な、なんだかムズムズするわ。でも、嫌じゃない……」 「それも“心”の成せる業ですの。照れくさいって“感情”ですの~♪」 「て、照れるとか恥ずかしいってこういう事をいうのね?……ひゃうっ」 「こら、可愛らしい声を出すなっ!その……私も顔が紅くなりそうだぞ」 「そ、そう言われたって……マイスターに触れられると、出ちゃうのよ」 とても“初”で可愛らしい。初めてドレスに袖を通す“少女”そのままの リアクションは、私……いや、私達の胸をとても暖かくしてくれる物だ。 程なく着付けが完了した所で、アルマが神姫サイズの姿見を持ってきた。 当然ながら、彼女らも各々に与えられた“春の新作”を纏っているのだ。 「マイスター、これでエルナちゃんに姿を見せてあげて下さい……っと」 「どうだ?これがお前だ、エルナ。神姫として、凛と振る舞う娘の姿だ」 「とても似合ってて、可憐ですね……お揃いですよ、エルナちゃんっ!」 「……嫉妬しちゃう位に、可愛いんだよ。ボクらまで堪らなくなるもん」 「うん。切れ長の目に、淡い紫と白のコントラストが映えますの~っ♪」 「はうぅ……そ、そんな褒められる事なんかしてないわよ……アタシ?」 只服を着ただけなのに、皆が暖かく……微笑ましく見守ってくれる。その 感覚は、決して全身を武装化しただけでは味わえなかった物なのだろう! 可愛らしくもじもじと手を絡ませるエルナと、それを抱きしめる三姉妹。 私は四人の頭を、順番に撫でてやった。皆は糸の様に目を細めて、感触を 味わっている。エルナも、まんざらではないという表情だ。くぅぅッ!? 「コホン……そう言えばエルナよ、眠っている間にお前の登録をしたぞ」 「登録?神姫同士のバトル、って奴かしら……過去はムダじゃないのね」 「有無、そうだ。装備はこれから作ってやる事となるが、それは後日だ」 「武装が仕上がったら、戦闘訓練とかに打ち込むんだよ。エルナちゃん」 「ふふっ。負けないわよ、クララお姉ちゃん?本当楽しみね……色々と」 塗装作業の前に、私はエルナを事務局に見せている。そして、お墨付きを 頂戴したのだ。完全オリジナルの素体という事で多少の制約はあったが、 登録を受理された彼女は、正真正銘“神姫”として生まれ変わったのだ! それを自己認識したエルナは、早速“姉”との訓練に思いを馳せている。 だが、今日はもっと大切な事をせねばならん。前に踏み出さねばならん! 「まぁ待て、今日は……その、何だ。デートと洒落込もうではないか!」 「で、デート!?アタシなんかと?……なんか、なんて言っちゃダメね」 「そうとも。お前も大切な“妹”なのだぞ!それを、今日は明確にする」 「“も”……って、事はマイスター!ひょっとしてあの事、ですか!?」 「そうだ。長く待たせてしまったが、約束は……しっかり果たしてやる」 「……やっと、本心と言うか具体的な言葉が聞けるんだね?マイスター」 「なら今日は精一杯五人で楽しんで……それから、告白を受けますの♪」 『はいっ!!!』 ──────胸が張り裂けそうだよ。皆への、想いで。 第三節:逢瀬 全てが終わった暁には、私の“想い”を具体的な言葉として告白しよう。 それは、アルマとクララに誓った事だ。しかし、新しく私達の輪に加わる エルナにも……更に、長く側にいてくれたロッテにも、言わねばならぬ。 “マスター”として……“マイスター”として、私が抱いている想いを。 デートと言うのはつまり、言い出せる雰囲気を作る為の通過儀礼なのだ。 「ほれ、エルナ。バランスをしっかり取らぬと墜ちるぞ?どうだ、外は」 「あ、あのマイスター?皆見てるわよ、アタシ達の事……変じゃない?」 「自意識過剰かもしれないけど、決して変じゃないよ。皆、綺麗だもん」 「そうですね……マイスターの『白と橙の服』も、お揃いで綺麗ですし」 「わたし達の服に合わせる形で、マイスターは何時も服を作りますの♪」 「そうなの?その、マイスターも……可愛いと思うけど、あのその……」 私の左肩で、エルナが周囲の“好奇の視線”に身をよじっていた。ここは 渋谷のセンター街である。作業に結構な時間を取られていたので、あまり 遠くへ出張る事は出来なかった。しかし、私達の日常と世間に慣れるなら こうして街を見せてやるだけでも十分効果があると睨んだのだな、有無。 「で、でもさクララお姉ちゃん……それなら、これから毎日こうなの?」 「毎日という程でもないけど、可憐に振る舞える位の場数は踏む筈だよ」 「……そ、そう。ところで、さっきから周り見てて気になったんだけど」 「何です、エルナちゃん?……あのお兄さん、何か変な事してました?」 「うん。あの人、耳に通信機なんか付けて誰の指令を受けてるのかしら」 「え~と……あれは音楽を聴く物ですの。無線機とかじゃないですの♪」 だが、何処か常識に疎い所があるのはしょうがないか……?まぁ、それも 焦る事はない。これから四人で、街での暮らしという物を教えればいい。 自己を恥じて律していくその姿は、とても愛らしいではないか。真っ赤な エルナを、私はそっと撫でてやった。それだけで、緊張は随分と解れる。 「うぐ、だ……ダメねアタシ。音楽とかは、北欧のしか聞いた事無いの」 「北欧の?ひょっとしたら民族舞踊とか、地元のバンドとかですの~?」 「う、うん。“マヨール”と“ベルンハルト”が、その辺好きだったの」 「ふむ、そうか。では今度エルナにもお薦めを教えてもらうとしようか」 「後……あたしの演奏と歌に合わせて踊るのも、いいかもしれません♪」 「ふぇ!?だ、ダメよ!アタシは見聞きしてるだけで、上手じゃ……!」 「大丈夫だよ。技巧も大切だけど、ああ言うのは“心”が第一だもんっ」 そうして、他愛ない会話を膨らませていく。互いを深く知っていくには、 兎に角なんでも話すのが一番なのだ。御陰で、エルナの過去や嗜好なども 意外な側面が見えてくるのだ。例えば、そう……このショーケースだな。 「わぁ……マイスター、アレ見て!アレ……ほら、水晶のイヤリングよ」 「む、クリスタル自体は有名な工房の品か。ああ言うのが好きなのか?」 「ええ、金や銀も綺麗だけど……この中だったら、アレとこの紫色のね」 「それはアメシストだよ、エルナちゃん。あ……二つ名にもどうかな?」 「ふむ。んー……“紫風の尖姫(アメティスト・ヴァルキュリア)”とか」 「いいですね。アタシ達がバトルで名乗るのも、宝石の名前ですしッ!」 「エルナちゃんがお気に入りなら、今度その二つ名を使ってみますの♪」 ウィンドウショッピングに華が咲くのは、神姫と言えども買い物が出来る 身の上ならば女性は皆同じなのだ。それは、私が散々己の店で見た光景。 だからこそ……エルナもそういうゆとりが産まれた今は、瞳を輝かせる。 そこから話は、バトルで名乗る二つ名へと発展する。本当に、他愛ない。 だが、これこそが幸せなのだ。この何気ない日常こそ、喪いたくない物。 「ふぅむ……そろそろ夕餉の時間か。皆、適当な店に入ろうではないか」 「え?お、お店って……でもアタシ達人間の食事なんて摂れないわよ!」 「ふふっ。あのドクターなら、その辺りは心配要らないですの♪ね、皆」 「きっと“仕込んでる”筈ですよ……皆、あの人に修理された時にね?」 「うん。匂いを嗅げば、エルナちゃんも自分の変異に気付く筈なんだよ」 ビルの谷に沈む陽を見てディナーを提案する私に、当然エルナは戸惑う。 だが“姉”達が睨んだ通り、あの喰えない人は私に意地悪く笑っていた。 故に『十中八九』と見て良いだろう。私は皆で、狼狽するエルナを連れて イタリアンレストランへと入った。まずは見知った洋食の方がよかろう? 「まずは、マルゲリータのピッツァを頼もう。後は皆、好きな様に頼め」 「分かったんだよ。でもマイスター、エルナちゃんは“どっち”かな?」 「……正直そこまでは聞いていないのでな。とりあえず量を確保するか」 「フルーツも少々と……あ、ライスコロッケなんかよさそうですの~♪」 「え、あの?なんで皆、人間の食事注文してるの?普通無理でしょ!?」 「確かに普通は、無理ですね……でも、あたし達はきっと大丈夫ですよ」 さりげなくピザを頼んだのは、過去との訣別を意味する。しかし、それは 最早どうでもいい事だ。それよりも、何が起きているのかを理解出来ない エルナを落ちつかせながら、料理を待つ事こそ肝要。あまりにも自然且つ 遠慮無く頼む“姉”に、彼女は驚くばかりである。だから私は、こっそり カルボナーラも追加してやった。さぁ、この娘はどんな顔をするだろう? 「お待たせしましたー。でもお一人でこんなに大丈夫です、お客さん?」 「一人ではない、見ての通り五人だ。気にせずに料理を持ってきてくれ」 「……う、わぁ。何これ。これが、人間の食べ物なの……?いい、香り」 「ふふふっ。匂いが分かるなら、ちょっぴり口に運んでみてください♪」 十数分位で運ばれてきた豪勢な食事を前に、エルナは初めての“香り”を 体験した。それは、今まで情報として知覚した臭気ではなく……文字通り 『食欲をそそる』指向性を持った感覚として、彼女の超AIに染み渡る。 伺いを立てる様に見上げてきたエルナに対して、私は笑顔で肯いてやる。 「い、いただき……ます。はむ、ん……え!?何これ、む……んくっ!」 「お洋服を汚さない様、気を付けてくださいですの~♪はむ、はむ……」 「エルナちゃんはいっぱい食べるんだよ……アルマお姉ちゃんみたいに」 「あ、酷いですよクララちゃんっ!あたし、そんな大食いじゃないです」 「にしても……やっぱりDr.CTaが仕込んでたね、“食事機能”。あむっ」 「『今晩はお楽しみだねぇ』等と、言っておったからな……あちちっ!」 「ああもうマイスター、チーズで火傷しない様に気を付けて下さいね?」 アルマの窘めに、私もつい照れくさくなる。そう、こういった“交流”を 補助する為の特殊機構こそ、Dr.CTaが研究を続けている“食事機能”だ。 エネルギー補給経路の確保という以上に、この力は私達の“心”を繋ぐ。 無心に食事を頂くエルナを見ていると、つくづく彼女の悪戯心には感謝を せねばならんな、と感じる……にしてもな。その、なんだ。彼女は……。 「……か、可愛い。ほれ、クリームが垂れているぞエルナや……よしっ」 「あ、ありがと。はぅ……な、何か凄く照れくさいわ……でも、嬉しい」 「マイスター、タバスコ取ってほしいもん。ボクだって、甘えるんだよ」 「あ、クララちゃんずるいですよ!後でこれ、一緒に飲みましょうよっ」 「ふふ~……わたしは、食べ終わってから一杯拭いてもらいますの~♪」 「ああもう皆、急かすでない!今日という時間はまだまだあるのだぞ?」 ──────そう、楽しい時間は……ずっと続いていくんだよ? 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/393.html
戦うことを忘れた武装神姫 その7 ・・・その6の続き・・・ 神姫オーナーがよく来ることで名のしれた、T市のとある居酒屋。 情報交換の場でもあり、久遠もちょくちょく訪れている。 「・・・で。今日の相談なんだけど。」 カウンター席で、イオの手にしたぐい飲みに自らのコップから酒を分け注ぎながら、久遠が話を切りだした。 「実は神姫バトルする事になっちゃってね・・・」 「なんだ、そんな事か。やっちゃえばいいじゃないか。 あ、オヤジさん、唐揚げ一皿追加ね。」 と、バリバリ食べ物を注文してはモリモリ消費するDr.CTa。 彼女の神姫、沙羅とヴェルナも同様に、どんどん食べている。 「いやー、それがさぁ。M町のセンターのトップとやるんだよ。」 「ふーん。それで? ・・・おねーさーん、生中一杯追加おねがいしまーす。」 「それでって・・・。」 ため息ひとつ、久遠は手元の酒を飲み干すと、経緯をCTaに説明した。 ・・・ それは、久遠がリゼを連れて、神姫関連の雑誌をM町のセンターへ買いに行った時の事だった。たまたまフィールドでは、草リーグの試合が開催中。。。 騎士子VS猫子、しかし猫子は戦い慣れていないのか、一方的な試合内容だった。半泣きの顔つきで防戦一方の猫子に、容赦ない攻撃を次々に加える騎士子。 やがて、研爪(ヤンチャオ)が跳ね飛ばされ、防壁(ファンビー)が粉砕され- 騎士子は、独特の形をした太刀-おそらく、オーナーが自作した物であろう-を振りかざし、追いつめられて戦意を喪失しきった猫子の右腕を- 斬り落とした。 盛り上がるギャラリー。フィールドのシールドが解除されると、まだ中学生くらいの猫子のオーナーの女の子は倒れて動かない猫子を拾い上げ、ごめんね、ごめんね・・・と、大粒の涙をこぼし、店の隅でしゃがみ込んでしまった。 一方の騎士子のオーナーと思しき人物は、勝って当たり前と言わんばかりの態度で、ギャラリーと歓談。 どうにも納得がいかない表情の久遠は、その場を離れ猫子のオーナーの元へ。 「・・・大丈夫。ウチのリゼが治せると思うよ。」 声をかけると一瞬警戒した猫子のオーナーだったが、久遠のボックスから出てきたリゼの姿に、泣くことを止めた。 「どもー。久遠にくきゅうレスキュー隊のリゼでーす。お怪我をした神姫はどの子かなぁ?」 妙に明るいノリで出てきたリゼは、いわゆるナースルック。手にはご丁寧に注射器とバインダー。 「・・・ということ。こう見えても結構な腕前を持っているから・・・。」 久遠はセンターのレンタル作業台を借り、まだ不信感を抱く女の子を後目にリゼと作業にかかる。 「どう?」 「うーん・・・やぁ、大したことは無さそうだよ。あたしは外傷を診ておくから、ヌシさんはクレイドル経由でデータ損傷のチェックをかけて。」 「ほいきた。」 久遠はCTaから貰った試作のクレイドル「さわやかしんさつしつ」を取り出すと、そこへ猫子を移動させ、診察台に寝かせた。 リゼは、白衣の下から次々に工具や補修パテ、タッチペン等々を取り出し、猫子の傷を瞬く間に修復。斬り落とされた腕も、久遠のストックパーツを用い見事に修復完了。 その間に久遠は、慣れた手つきでデータの検査。 それも数分で終わり・・・ 「はーい、お姉ちゃん。おまたせ〜。 破損部品も全部純正で補修したから、これで完璧、もとどおりだよー。 さぁ、再起動かけてあげて。」 女の子に、猫子をリゼが抱きかかえて手渡す。 マニュアル通りの手順で再起動をかける。 「・・・ふえ? あー、かえでちゃん・・・ にゃー!!!怖かったよ〜!!」 「ティナ・・・ごめんね、あたしがやってみたいって言ったばっかりに・・・」 「ううん、かえでちゃんの所為じゃないよ・・・わたしが弱かったから・・・」 わんわんと鳴く一人と一体の横で、冷静に状況判断の久遠。 「ふむ・・・きちんと再起動したねぇ。」 「そりゃそうさ。あたしが治したんだもの。どうやらデータも問題無いっぽいね。よかったよかった。」 と、リゼも満足そうな笑みを浮かべていた。・・・久遠が、クレイドルを片付け終わるころには、かえでと呼ばれた猫子・ティナのオーナーも、落ち着きを取り戻していた。 「本当にありがとうございました。雑誌で読んで、対戦をしてみようとはじめてやってみたら、いきなりここで一番強い人とやることになってしまったんです。」 「私からも御礼を申し上げます。右腕どころか、身体の細かい傷の補修までしていただきまして・・・。」 深々と頭を下げるかえでとティナ。かえでは財布をごそごそ・・・と、その手を止める久遠。 「いや、そんなにしなくてもいいから・・・。 趣味の延長なんだから、タダでいいって。なぁ、リゼ。」 「そうそう。あたしだって、好きでやってることなんだし。ねー、ヌシさん。」 その二人の会話に、思わず笑みがこぼれるかえで。 「おぢさまとそのストラーフさん、仲がいいんですね。」 「お、おぢさまって・・・」 ちょっとガックリ来ている久遠の肩の上では、リゼが必死に笑いをこらえている。 「・・・しかし、最近のバトルもずいぶんと質が落ちたもんだ。」 ぼそっと久遠が呟くと、かえでが訊いてきた。 「そうなんですか? もっと激しい試合だったんですか?」 「ちがうちがう、その逆。最近の試合が殺伐としすぎているんだよ。 さっきの君たちの対戦だって・・・終了間際には、もうティナちゃん・・・だっけ?戦意喪失していたのに、トドメを刺してきたじゃないか。」 頷くかえでとティナ。久遠は続けた。 「俺が武装神姫をいじり始めたときなんて、それこそ礼に始まって礼に終わる、互いをいたわり尊敬する、のんびりとした感じだったんだけどね・・・。」 「そんなんじゃロクな武装神姫にならないっすよ。」 中途半端に太い声が、久遠達の後ろから響いてきた。振り返ると、そこには先の勝者-すなわちM町のトップ神姫使い-が立っていた。 ・・・>後編へ続くっ!!>・・・ <その6 へ戻る< >その8 へ進む> <<トップ へ戻る<<
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/397.html
前へ 先頭ページへ 「アリカって変わったよねぇ」 「…人の目を見て話しなさいよ」 高校の麗らかな昼下がり。 昼休みの教室では生徒達が思い思いの方法で身体を休ませている。 談笑するもの、昼寝をしているもの、携帯電話を弄っているもの。 アリカとて例外ではない。 ある意味例外だが。 アリカは女の子にしてはかなり大食いで、今もかなり大盛りな弁当を食べている。 教室内で未だに弁当を食べているのはアリカただ一人。 そして、その傍らで空を仰ぎながらアリカと談笑しているのは彼女の数少ない理解者、国崎 茜だ。 「いやね、アリカが神姫を買った当初は随分可愛がってたのになぁーって」 「アタシはあんたみたいに神姫ラヴァーズじゃないのよ……だから人の目を見て話しなさいよ」 茜は空を仰ぐのをやめ、自身の神姫であるアーンヴァル型のロンの頭を撫でている。 「トロンベちゃん、大人しくてとってもいいコだったのに~。最近会えなくて寂しいわぁ~」 「ウチにくれば幾らでも会わせてやるわよ」 「…怖いマスターがいる時分には会いたくないわぁ」 「殴るわよ」 「あはは、怖い怖い~……ねぇアリカ、ちょっとお願いがあるんだけど」 ふいに、茜がアリカに向き直った。 彼女の眼鏡が日光を反射して、その表情を窺い知る事は出来ない。 「何よ、改まって」 「今日私とバトルしてくれない?」 アリカは心底驚いた。 何故なら、茜は神姫バトルと対極の側に位置する人間。 即ち愛玩派と呼ばれる、バトルなんてもってのほかな人間だからだ。 「…別に良いけど、何で突然」 アリカは訝しげに問いかけた。 だが、茜はそれに対し意味ありげに微笑むだけだった。 「気味悪いわ…」 2036年。武装神姫は一般にも広く普及していた。 街中には専門のショップが立ち並び、リーグランカーとして生計をたてるものもいる。 そういった風流の中、私立高校の中にはバトルスペースを導入している学校も少数ながら存在する。 アリカの通う高校はその少数の中の一つだった。 新校舎増設の際にバトルスペースを導入したのだ。 今では校内ランキングも設けられており、アリカはそれのトップだった。 その王者アリカと愛玩派の茜とのバトルは一方的な物に終わると、現物客はそう予想した。 しかし、予想に反してバーチャルバトル・スペースで繰り広げられているのは一進一退の攻防だった。 アリカの神姫、トロンベは恵太郎と再戦したときと同じハリネズミの如く火器を取り付けた状態。 かたや茜の神姫たるロンはデフォルトのアーンヴァルの装備そのままだ。 茜の戦法は遮蔽物を盾にしながら、アーンヴァル自慢の機動性で掻き回す。 そして、隙を見てGEモデルLC3レーザーライフルでの狙撃。 地味ながらもトロンベにダメージを与えている。 一方トロンベは空中を自在に動き回るロンを捉えきれずに四苦八苦していた。 「……何よ、随分強くなったじゃない」 トロンベに叱咤を飛ばしながらアリカは茜を睨むように見据えた。 「私が強くなったんじゃないわ。アリカが弱くなったのよ」 「なんですって?」 「昔のアリカは……上手よロン、その調子で落ち着いてね……強かったわ、本当の意味でね。でも今は違う。素人相手に梃子摺っているのが何よりの証拠ね」 茜は眼鏡のブリッジを人差し指で上げながら言った。 「アタシは今も昔も変わらないわ! ……トロンベ、なに素人相手に梃子摺ってるの!? 早く倒しなさいよ!」 アリカは叫んだ。 それはもはや悲鳴に近いものだった。 その間にもリンの攻撃は着実にトロンベへダメージを与えていた。 「今のアリカは力に固執しすぎているわ。何時の時代も、力だけに固執する人間の上に降りてくるのは栄光じゃなくて敗北。歴史がそれを証明しているわ」 「それがどうしたっていうの!? 力を求めて何が悪いというのよ!? 武装神姫は戦ってこそでしょう! 戦わない武装神姫はただの玩具よっ!!」 「語るに及ばず、ね」 その瞬間、トロンベの眉間を閃光が貫いた。 勝者は茜とロン。 愛玩派と呼ばれるマスターが校内ランキングの王者を倒したのだ。 アリカはその場にへたり込んだ。 「…なんで……?」 「それが解らない限り、貴女は勝てないわ。私だけでなく、誰にもね」 茜はそれだけ言うと足早に去っていった。 観客の生徒らもそれに追随し質問責めを開始したようだ。 後に残されたのはアリカとトロンベの二人だけだった。 時計の短針が盤上の上に刻まれた7という数字を通り過ぎた時分。 外では夕方から降り出した雨が本降りとなって窓ガラスを叩いている。 アリカは自身の部屋で自問自答を繰り返していた。 「アタシが弱くなった……」 机に突っ伏して、もう何度目か解らない一文を口にする。 何十何百何千回繰り返したところで答えが出て来る筈も無く。 アリカの頭は機能しているかどうか怪しかった。 刹那、雷鳴が轟き閃光が瞬いた。 それに少し遅れて部屋の明かりが消えた。 恐らく雷の影響で停電したのだろう。 この一般人からしたらなんら特別でもない状況は、アリカにとっては少しだけ特殊な状況だった。 「…そういえば、あのときもこんな感じだったわね……」 正確には懐かしい状況、だろうか。 アリカは五人兄妹の末っ子だ。 上の兄弟は全員男で、幼い頃から男兄弟の中で育った。 当然、遊びも服装も兄らを模倣した。 そして、それはアリカの性格作りに大きく起因する事になる。 幼い頃から兄らと遊んでいたアリカは気付けば子分をたらふく従える、ガキ大将になっていた。 ケンカなんて当たり前で負けたことなんて一度も無かった。 それは同年代でも、年上相手でもだ。 だから、アリカには対等の友人は出来なかった。 アリカを知る者は、成長してからも怖れて近づく事を拒んだのだ。 アリカは当初、武装神姫をバトル目的で欲しがっていた。 幾度と無くテレビで特番を組まれる武装神姫。 そこでは身長15cmの小さな女の子が大きなフィールドでところ狭しと戦っていた。 アリカは知っていた。 ケンカの最中は何も考える事無く、自分だけの世界に引き篭もれる事を。 自分だけの世界は居心地の良い場所であった。 誰にも邪魔されず、誰にも干渉されず、自分自身に酔い痴れる。 それだけがアリカの楽しみでもあった。 しかし、成長するに従って女であることが足枷になった。 ケンカなどしようものなら学校で、家で怒られた。 女の子はケンカなんかしてはいけない、と何度も何度も怒られた。 武装神姫を欲したのは、その憤りを発散したかったのかも知れない。 二年前のあの日もこんな空模様だった。 高校の入学祝いと称して両親から贈られた一体の武装神姫。 子供には手が出せないほどの金額の玩具を、アリカが欲しがっていた事を両親は知っていた。 念願の武装神姫を手に入れたアリカはそれにトロンベという名を与えた。 初めはバトル目的で求めた武装神姫だが、気付けばアリカの唯一気兼ねなく話せる友人になっていた。 アリカはトロンベを学校には連れて行かなかった。 だから、家に帰宅すると寝るまで学校で会った事をトロンベに話して聞かせた。 トロンベはそれを尻尾を振るかのように喜んで聞いた。 それが毎日の楽しみであり、大仰だが生き甲斐でもあったのだ。 そんな幸福な日々が一年続いた。 ある日、アリカとトロンベがテレビを見ていると武装神姫の特番が流れていた。 そこには火花を散らしぶつかり合う武装神姫が映し出されていた。 血が騒ぐ、といったものだろうか。 アリカの根底に燻っていた物が再び燃え上がったのだ。 それから程無くしてアリカは校内リーグの王者となった。 学校という初心者だらけの閉鎖空間の中での王者という称号は、アリカを傲慢にさせた。 アリカは変わった。 ただひたすら勝利のみを追い求めるようになった。 トロンベは友人ではなくなった。 ただのケンカの道具に成り下がった。 やっと気付いた。 それと、思い出した。 トロンベを箱から出した時、その時も雨が降っていた。 そして、雷の影響で停電した。 起動後少し言葉を交わしただけのトロンベが、突如の停電に驚いてアリカに抱きついたのだ。 まるで子犬のようなその仕草がとても愛しく感じたのを思い出したのだ。 「トロンベ……!」 アリカの頬には涙が伝っていた。 そして、真っ暗な部屋の中で最愛の友の姿を探した。 いつもなら「なんでしょう、ご主人様」とすぐに答える筈なのに、何も言ってこない。 言い様の無い不安に駆られたアリカは机の中にある懐中電灯を取り出し、部屋を見渡した。 本棚、クローゼット、ベッド……。 ものがそう多くないアリカの部屋にトロンベの姿が無い。 アリカは若干の違和感に気付いた。 涙で濡れた頬に風が当たって冷たい。 窓が空いていた。 そして、窓の下には小さなメモ帳に綺麗な文字でこう書かれていた。 『ご主人様へ 私が弱いばかりにご主人様に迷惑をかけてしまって申し訳御座いません 私の代わりに新しい神姫を買ってください そうすればきっと倉内さんに勝てるはずです。 ご主人様、私は幸せでした。 今までありがとうございました』 気付いた時、アタシの身体は勝手に動いていた。 頭で考えるよりも早く、身体が反応した。 着の身着のままで家を飛び出す。 母さんが何か言った気がするけど構っている暇は無いんだ。 トロンベ。 アタシの友達。 気付けば、アタシは泣いていた。 涙が次から次へと溢れてくる。 雨と合間って視界がぼやける。 ひたすら走る。 トロンベがどこにいるのか分からないけど、探すんだ。 それが、アタシの罪滅ぼし。 『失ってから初めて気付く物がある』 使い古された陳腐な言葉だと思う。 だけど、的を得ていると思う。 アタシは傲慢だった。 お猿の大将も良いトコだ。 それがトロンベを傷つけていることも、今の今までわからなかった。 アタシは、バカだ。 大バカだ。 それを気付かせようとした人達にも吠えたんだ。 本当に、バカだ。 トロンベに謝らなきゃ。 許してもらえるかわからないけど、謝らなきゃ。 雨が降る。 まるで誰かの心の中を映し出したように、雨は降る。 遠くでは雷鳴が轟いている。 まるで悲鳴のようでもある。 トロンベは一人泣いていた。 町外れの廃車置場の一角で。 体を丸めて、息を潜めて泣いていた。 頭の中に浮かぶのは最愛の主人の事ばかり。 そして、主人の期待に添えない自分に腹が立つ。 いまでもこの判断が間違っているとは思っていない。 これが最善の手だと確信に近いものがある。 だけど、心のどこかでそれを否定する物がある。 それは後悔であり、寂しさであり、哀しさだった。 バトルをすることは嫌いではなかった。 武装神姫たるトロンベの闘争本能。 主人が望めば喜んで戦いに身を晒す。 そして、勝利の美酒に酔う。 主人は喜んでくれる。 自身も勝てば嬉しい。 でも、それだけじゃ足りなかった。 もっと話したかった。 もっと触れ合っていたかった。 ずっと傍らにいたかった。 ずっと抱いていて欲しかった。 これは傲慢だろうか。 たかが玩具に過ぎない武装神姫の傲慢だったのか。 自身を主の友人だと思い込む。 それが神の怒りにでも触れたのか。 自らこうしなくても、近い内に同じ状況になっていただろう。 でも、それは耐えられない。 主人直々に捨てられるのは、とても怖い。 怖くて、怖くて、耐えられない。 だから自ら捨てられた。 その方が、まだ耐えられる。 それでも紛い物の心が痛む。 「…ご主人様ぁ……」 トロンベは泣いた。 子犬の様に、泣いた。 雨が容赦なく身体を叩く。 人にしてみれば水滴なんて何でも無いが、神姫のトロンベにしてみればそれは砲弾の様な大きさと衝撃を伴っている。 そして、それは身体の熱を容赦なく奪っていく。 全身の間接という間接から雨水が染み込み、体温はどんどん下がっていく。 人間と同じ温度に保とうとする機能が作動するが身体は温まらない。 それどころか、ますます寒さは増していく。 内蔵電池が尽きかけているのだ。 トロンベは死を覚悟した。 内蔵電池が尽きた所で、再び充電すれば済む話だ。 しかし、ここにはクレイドルなど存在しない。 だから、ここでの電池切れはそのまま死を表すのだ。 仮に誰かに拾われたとしても、記憶の類は消し飛んでいるだろう。 記憶も電池切れが長すぎると保存しておけないのだ。 やがて内蔵電池の底が突き、トロンベは深い眠りへと堕ちて行った。 その間際、懐かしい声を聞いた気がした。 先頭ページへ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/530.html
姦し神姫──あるいはトレーニング 長女アルマと次女ロッテ、更に三女クララ。賑やかになった物だ。 だがこれ以上養い切れぬし、事実上私達はこの四人で生きるのだ。 そうと決まれば拘りたいのは……衣装だな。ツッコミは禁止だぞ? 「というわけで、今日はお前達の基本姿を整えようと思うッ!」 「はいですの~♪でもマイスター、これ脱いじゃうんですの?」 「機能性も十分だし、重ね着も出来て……勿体ないと思うけど」 「うんと。そ、そうですよっ。あたしは別にお下がりでも……」 皆が不平を言うのも無理はない。私がロッテに元来与えていたのは 万能アンダースーツとしては勿論、夏場はジャケットとして使える 少々SF気味なデザインの、神姫専用アーマージャケットなのだ。 既存・自作を問わず大半の戦闘用アーマーと併用可能である上に、 MMS用共通ジョイントを20%程増やす効果もある、自信作だ。 「有無。私としてもこれを廃棄してしまうのは少々惜しい、そこで!」 「そこで……?んっと、ただのお下がりじゃなくて、ひょっとして?」 「……皆の適性に応じてリビルド、ついでにリペイント……かなッ?」 「え、えええっ!?え、ええっと、あの。いいんですか、そんなの!」 勿論構わぬ、とアルマを優しく撫でる私。青はロッテの色であるし、 クララは緑中心。継ぎ接ぎから生まれ変わったアルマは赤ベースだ。 この二人に、無理に蒼いジャケットを着せても浮いてしまうだろう。 それに、このジャケットに秘めた機能を考えれば……再調整は必須! 「というわけで、早速ながらお前達三人の為にプレゼントしよう」 「わ、ぁ……桜色が綺麗。有り難うございます、マイスターっ!」 「マイスター。これひょっとして、ボク達三人とも機能が違う?」 「あ、クララは気付いたみたいですの。とっておきの秘密です♪」 「察しがいいな。ちなみにロッテの奴も、今までとは違う機能だ」 きゃいきゃい、と新しい衣装にはしゃぐ三人の神姫。こういう光景は いつ見ても眩しくて良い。作ってよかったと自分で思うぞ、本当に! ただ三人は気付いた様だが、このジャケットには仕掛けがあるのだ。 それを使いこなす特訓の為に、ウレタン製のトレーニングルームへと 三人を連れて行く。シングルベッドを増設したクレイドルの横だが。 ちなみに診察室や四人用の炬燵も増設した。無論、東杜田技研製だ。 「え、えっと……うんと。マイスター、ここは一体……?」 「うむ、その服を試す為のブースだと思ってくれればいい」 「……アルマお姉ちゃん、コード:A-10-254をONにして?」 「え?う、うん……きゃあぁっ!?えと、これって……!」 クララの助言に従った刹那、背中から噴き出す圧縮ガスによって 前に突き飛ばされ、つんのめりそうになりながらも走るアルマ。 初回で転ばずに済むとは、流石はストラーフタイプの運動性能! そう、この服には瞬発性の小型ブースターが仕込んであるのだ。 本来は危機回避や突撃の為に仕込んだギミックだが、画一的では 役に立たないと思ってな。今回バリエーションを増やしたのだ。 「アルマのタイプは“急速前進”。以前のロッテ用だな、有無」 「ロッテちゃんの、ですか?……ダッシュには、都合良いかも」 「じゃあマイスター、わたしの機能は今度何になりましたの?」 「“急速後退”だ。射撃戦メインなら、これが都合良かろう?」 「じゃあ、さっそく使ってみますの……っととっ!?あうっ!」 そう言うや否や、ロッテは肩口と腰から噴き出したガスで後ろへ。 バランスを必死に取るが、安定する前に壁にぶつかってしまった。 脚をちょっと浮かせ、地面に引っかからない様に動くのがコツだ! 「……マイスター、ボクのは横──“サイドスライド”かな?」 「有無、三人とも違うとなればこれだ。それにクララなら……」 「うん。この方が“魔術”には都合いいんだもん……っとッ!」 反復横飛びの様に、軽やかに飛び跳ねるクララ。飛距離は出ずとも 安定性は良いな。というより……着地点を計算しているのだろう。 クララの教習により、三姉妹でのブースター講習が始まった様だ。 「アルマお姉ちゃんは、足運びに気を付けていれば大丈夫だよ」 「うんと。足運びってこう……っとと、こうかな?かな~っ?」 「そんな感じ……ロッテお姉ちゃんは、逆に脚を前に投げ出す」 「ブースターの勢いに任せる感じですの?こんな、風にッ……」 こうして三人は圧縮ガスが尽きるまでの間、実践的に学びおった。 機能面では申し分がない様で、これなら販売も可能かもしれんな。 だが今は何よりも気になる事を、三人にぶつけてみる事にしたぞ? 「アルマ、ロッテ、クララ……その服は、気に入ったかの?」 「はいですのっ♪マイスターのお洋服、大事にしますのッ!」 「あたしもです。マイスター、その。有り難うございます!」 「機能も意匠も満足。マイスター、ボク達の為に……嬉しい」 ──────物作りは全て、誰かの喜びの為にあるんだしね? メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2652.html
休日。 昼の中頃。ゲームセンター前。 「ついにこの時か」 「そうですね、ここまでの日がものすごく長く感じられたような気がします」 目の前には入口、僕たちはいつものゲームセンターの扉前に立つ。 今日は宮本さんイスカたちとの戦いの日だ。 家出していたシオンを拾ってから今日まで色々なことがあったが、今日でどのような結果であろうとも決着がつく。 もちろん勝つつもりでいくつもりだ。 だが、イスカは淳平の神姫ミスズを簡単にあしらった神姫だ。 実力差が当然ある。 負ける可能性のほうが多い。 (あー! 駄目だ駄目だ! こんなネガティブになってちゃダメだ) パンッ! 「よっし、行くぞ!」 「きゃ、螢斗さん? どうしたんですか」 「な、なんでもない。行くよ」 両頬を思いっきり痛いほど叩いて気合いを入れた。 暗い思考を追いだすように。 頬を叩いた音にシオンがビックリしてしまったが、今は……存外自分でやった頬が痛かったので説明はなし。 見渡せばいつもの通り、学生ぐらいの人たちがちらほらといる店内。 今日は誰も仲間を呼んではいない。僕らは自分たちでケリをつけなくてはいけないからだ。 僕たちはただ単に今日バトルをするだけの客。それだけだ。 そして、奥を見れば、異彩な雰囲気を放っているオーナーと悪魔型神姫がいる。 凛とした態度の宮本さんと、赤い大剣を持ったバイザー姿のイスカだ。 「こんばんわ、長倉君とシオン」 「こんばんわ」 僕と宮本さんはいつもの挨拶を済まし、視線を合わせる。 あちらはどう思っているのだろうか。 元々持っていた自分の神姫と戦う事。様々な思惑が渦巻くこの戦い。 本当に僕はあの日から奇妙なことに首を突っ込んでしまったなと思った。 でも後悔はしてない。 「ステージは廃墟街でもいいかしら?」 「はい、大丈夫です」 好都合だ。この前にアリエと戦った場所なら有利に働くかもしれない。 でも、指定してくるという事はあちらとしてもメリットがあるのかもな。 「…………」 そう思ってからイスカの方を見ると、イスカはもう宮本さんの元を離れ筐体のオーナーブース前に一人で行ってしまった。 本当に何も言わないんだな。 前口上とかシオンに対しての挨拶とかはないのか。 宮本さんはイスカを横目で見るとシオンに話しかける。 「ごめんね、シオン。イスカは認めたくないのよ。あなたが私たちから離れてバトルできるようになった事実がね」 宮本さんは悲しそうな顔でそう言う。 「でも……」 シオンは言葉に詰まりながらも、なにかを言おうとするが。 宮本さんはそれを制して首を横に振る。 「私ももう少し真剣にあなたを大事にしていれば、長倉君みたいにバトル恐怖症を治せたのかもしれなかったわ」 「もう取り返しがつかないのにね」と最後にフフっと自傷的につぶやく。 それは悲しすぎます、宮本さん。 あなたは存分に大事にしていた。ただ、みんなの中で行き違いがあっただけでイスカだってシオンの事をわかってくれれば……。 僕はありのまま考えたことを言おうとした。 でも、先にシオンが宮本さんを見上げて話していた。 「私は逃げてしまいした。それは確かに変わらない事実です。……でも、私はマスター宮本 凛奈さんの武装神姫であったことを後悔していません。もちろん拾ってくれた螢斗さんのことを誇りに思っていますが、私は今も凛奈さんを大事に思っています。お姉ちゃんにも私から全部話します……だから、そんな悲しそうな声を出さないでください」 穏やかに優しく、恨みなどまったくないことを示すシオン。 「……ありがとう、シオン。いいバトルをしましょう」 清らかなシオンの瞳から底が見えたのか、顔をそむけてから礼を言う宮本さん。そして宮本さんも台について行った。 僕が言う前にシオンが全てを言った。 シオンの方がよっぽど宮本さんがわかっている。 いや、それは当り前なんだよな。元々あちらの神姫なんだ。 僕が説教臭いことを言っても、シオンの言葉の方が何倍も説得力があることだろう。 と、僕が深く考え込んでしまったのをシオンは見ると、何を勘違いしたのか慌てて言い訳をしだした。 「いや、大事に思っていただけですよ! けど、今の私には螢斗さんが一番というか、私自身にも言い聞かせる為にあんなこと言っただけでして、他意はないんですよ!?凛奈さんにも悲しい顔をしてほしくなかっただけでして……あうー、なんて説明すれば良いんでしょうか……」 「ふふふ」 そんな必死に言い繕うシオンを見てたら、なんだかおかしくなり笑ってしまった。 「あ、なんで笑うんですかー。私は本気で螢斗さんのことを――」 「わかったって、ありがとうな。シオン」 「もう、……うふふ」 シオンを可愛く思い頭を撫でる。 シオンのこんな姿を見てたら嫉妬とか馬鹿らしくなった。 今は思いっきりイスカとバトルすることを考えよう。 “壁”を乗り越えるための戦いをするために。 「じゃあ、いくよ。シオンの為の最後の戦いに」 「あ、はい。螢斗さん、頑張ります」 ―――― 廃墟街のビルの上。 シオンは廃ビルの間を飛び飛びでブースターを使い疾走していく。 索敵中だ。センサーで大まかな場所すらわからない。イスカはジャマーの装置でも積まれているのか、いまいち居所がつかめないらしい。 だからこちらは高い場所から探しているのだけど、なかなか見つからない。 あの大剣を持っているか、持っていないか、で速度が違うのだろうか。 「イスカはこういう時どんな行動するかわかるか?」 「お姉ちゃんのバトルでは……こういう時奇襲をして一発で決めていることが多かった気が……」 「うそ!? それを先に言ってよ。止まって、シオン!」 「は、はい。すいません」 ビルからビルへ移動していたシオンは身体を急停止させる。 現実であれば、地上10階ぐらいのビルの屋上。縦幅横幅共に人間サイズでいう30メートルぐらいのそこにシオンは立ち止まった。 奇襲なら、広いこの場所だったら、どこから来ても大丈夫だ。 「使い物にならないけどセンサー、共に感覚を研ぎ澄ませて探ってみて」 「はい……………」 どちらから来るだろうか。横からか上からか。 はたまたそのまま、登ってくるのか。 階段使って登ってくるなんてシュールな。普通神姫は飛べるパーツを付けてるんだからそんなことをする必要はない。 前に見たバトルでイスカはすごい跳躍力を見せていたけど、あれで高速で跳んで来たって視界は開けているんだから油断することはないと思うけど。 登ってくるか……。 登る――。 『シオン、そこから右に跳び退け!』 「え」 『いいから』 そこから、シオンは瞬時に判断、リアも気にせずぐるんと勢いよく横に転がった。 ドォンッ! と先ほどまでいた地面の床、コンクリートが盛り上がり中からイスカの姿が出てくる。腕にはミスズを仕留めたあのパイルバンカーだ。あれを使って下から仕留めるつもりだったらしい。 いきなりあんなもの持ち出してきて、本気で一発で仕決める気だったのか。 間一髪だ。 「……く、気付かれていた上にまさか避けられるとは。確かにここまで戦えるようになっているということか」 このステージを指定したのは一撃必殺のこの為だったのか。 姿を現したイスカは憎々しげに言いながらパイルバンカーをパージした。 もう使う気はないみたいだ。最大威力の一撃をもう確実に当てられないと思ったからだろう。第一あれは重そうだしな。 「螢斗さんの指揮がなかったら危なかったですけどね……」 「……キサマと違って、できた良いオーナーみたいだな」 「ふふ、確かにですね。私には勿体ないマスターです……ですけど、私はそのマスターの為に」 スッとフェリスガンを構え相手に向ける。 「お姉ちゃん、あなたを倒します」 「……面白い、行くぞ」 今のところ、あの大剣は持っていない。 転送され代わりに出してきたのは二丁の黒いサブマシンガン。それをシオンに構え返すイスカ。 痛いほどの静寂が場を包む。 先に動いたのは――シオンだ。 シオンは真横にブースターをかけながら、ビルの外に身体を投げ出す。 それを追いかけ、イスカもサブマシンガンを連射させ弾線を作りながら同時に屋上のエリア外に駆ける。 空中に投げ出されてシオンはその場に足場があるがごとく、空をうまく駆けていく。 イスカは速度を付けてビルを駆け下り、重力がないかのように衝撃を殺した後、先に下から地面についてもなおシオンに銃弾の嵐を浴びせてくる。 対するシオンは弾を空中で加速をつけながら避けつつ、フェリスファングをプレシジョンライフルに変換させ、量より質でいく気だ。 もちろんイスカも黙って見ているわけではないので、常に動き続けながら下から休みなく弾を撃ってくる。 それによってシオンも避けながらでは狙いが付けられない。 どちらも動いているからだ。 だが、その内シオンのブースターはオーバーヒートによって動けなくなる。ずっと空中を飛んではいられないから地面に降り立つ必要がある。 『シオン、そこから移動して、ビルの間へ!』 答えを返すほどの余力がないのか、僕の声を聞いて瞬間横の路地に飛ぼうとする。 だが、 路地に飛ぶ前に――目に捉えない程の速さでイスカの姿がシオンの真上に。 視界に捉えた瞬間。 「……遅い!」 「つうぅっ!」 イスカはサブマシンガンを空中で捨ててからビルの壁を三角蹴りの要領で蹴り、シオンの頭上から前転宙返りの回転かかと落とし。 シオンはそれに気付き、両手でプレシジョンバレル越しに重ね合わせ、それを受け止めた。 「……それでいて、甘い!!」 イスカは腰につけた補助ブースターを起動させ、かかと落としを放った状態から空中で器用に身体を返してから足刀の横蹴りを行った。 「ぐぁっっ!!」 その力が加わったことにより、シオンは新幹線ぐらいまで加速してメインストリートのビル壁にまで吹っ飛ばされ叩きつけられた。 ヒュンッと風を切る音だけを残して、ビル壁の中心を崩して中に突っ込まれるシオン。 ビルからはもうもうと煙を上げていて、イスカは地面に降り立ってシオンの突っ込まれたビルの前に行く。 転送されてきたのはあの緋色の大剣。 それを両手で持ち、叫ぶ 「……まだ終わりじゃないだろ!」 そう。まだ終わりじゃない。 ――まだシオンは生きている。 「……!?」 穿たれた壁、灰色の煙を上げてある場所の煙の風向きが突然丸まった。 そして、そこから飛び出てくるのは傷だらけのシオン。 両手で真下にいるイスカに構えたる武装は今のシオン最強武装「プレシジョンエクストリーマ・シューター」 「くらえぇーーーー!!」 下にいるイスカに向けて、全力で声を上げエネルギー砲を放つシオン。 「……あぁーーーー!!」 イスカは雄たけびを上げ、大剣の柄を左手で掴み、その刃を右手で自分が傷を負うのも関わらず握り、横にしてそれを真っ向から受け止める。 刃の先から真っ二つに裂かれる橙色の光砲線。 その威力からかイスカの立つ地面は次第にひび割れ、沈み込んでゆく。 それでも、受け止めているイスカが歯を食い縛りながらも動きを見せる。 「……ぐぅ!……ッ消し飛べぇ!!」 右手を柄に戻し、勢いよく縦半円にフルスイング。 光砲線はイスカから反射したように直角に曲がり右方向に真っ直ぐ飛んでいき、通りにあった欠けた電柱が折ってから後に奥のビルに爆発が生まれた。 「はぁはぁ……そんな」 シオンは必殺の武装が効かなかったことで微かに狼狽してしまっている。 ダメだ、まだイスカは――。 「……どうし……った!!」 イスカは膝を沈み込ませてから、力を上に向け、ジャンプ。 浮かんでいるシオンの下まで来ると、身体ごとさせて回転力を大剣に乗せた縦回転斬りをシオンに仕掛けた。 「……つ……は」 シオンは大剣の衝撃をもろに受けた。 それにより頼みだった『プレシジョンエクストリーマ・シューター』はフェリスガンごとバラバラに砕かれてから、光砲線と同じ方向にシオンも声にならない声を出し吹っ飛ばされていった。 数メートル先、メインストリートの端まで、飛ばされて地面に数回転がってから 横向きに倒れてやっと止まった。 『シオン!! 大丈夫か!!』 僕は声を張り裂けて叫ぶ。周りの観客も僕の悲鳴に近い声にどうしたかと筐体に集まってきた。 だが、ぼくはそんなの気にしてられない。 シオンはバトルで、これほどのダメージを負ったことはまだ一度だってない。 それゆえにシオンが死んでしまうのではないかと、不安でたまらない。 バーチャルでもダメージの酷さは変わらないんだ。 CSCの精神的に死ぬなんてことも……それは嫌だ! 「かはっ! ……うぅ、ふぅ、まだいけます。フェリスガンを盾にして、なんとかこれで済みました」 シオンは口から血のような、オイルのような黒い液体を吐きだした後、腕を支えにして、四つん這い状態から腹を押さえてなんとか立ちあがった。 これで済んだ、ってすでに満身創痍じゃないか。立ってられるのも不思議なくらいのダメージを負っているのが目に見えてわかる。 これ以上は見ていられない。 もう降参して終わらせないと。 「……螢斗さん、はぁ……サレンダーしようとしてますね?……ダメですよ……はぁ」 『なんで!? もうこれ以上やったって勝ち目がない。フェリスガンも壊れて、もうぺネトレート・烈とかの近接武装しかないじゃないか!』 「ふふ……そうですね」 「笑っている場合じゃないよ! イスカは大剣使いのストラーフ。アリエみたいに小細工が通用する神姫じゃない」 話のイスカはもう勝ったと見ているのか、シオンのいる方に歩いてくるだけだ。 「確かに……ですけど……このぺネトレートクローに“力”があったらどうします?」 「え、」 一瞬シオンの言った意味が分からなかった。 でも、それはまだ分からないままだったんじゃないか。 「ようやく、わかったんです。これの正しい使い方を……」 シオンは横腹を押さえていた手を両手が空いた状態に戻し、ぺネトレートクロー・烈を腰から取り出した。 思えばよく無事だったよな。飛ばされまくって傷がないなんてどんだけ頑丈に作られているんだ。 シオンはそれを両手ずつに持ち、自然体でリラックスさせている。 いまだにイスカはそれをただの悪足掻きだと見ているのか歩みはゆっくりだ。 「はは、……私って馬鹿ですよね? 今までなんでこんな事に気付かなかったんだろう。私はアーティル型なんだから、きっかけはいくらでもあったのに。……でも、ようやく分かったんです。もう、私は逃げないから。私は山猫型MMS神姫アーティルのシオン。マスター長倉 螢斗の武装神姫です…………すぅ、はぁ……」 自分の事を再確認するかの如く呪文のように自分の名を言う。 目を瞑り、深呼吸。精神集中をしたのち、ぺネトレートクロー・烈を構え。 そして、次の瞬間、高らかに叫んだ――。 「 テラ根性!!! 」 ――声を上げた時、ぺネトレートクロー・烈の先から眩いほどの光刃が出現し出した。 交差させた二つともから、神姫サイズの片手剣程の刃が。 西洋の剣『ジャマダハル』の形状に似た剣が生まれ出た。 あれの出現条件はあの発声なのかどうかはシオンにしか分からないけれど、これで勝負がまだ終わってないことを僕は知った。 まだシオンは戦える。 戦えるんだ。 「まだ終わりませんよ。姉さん!」 シオンはニッと不敵に笑い、前にいるイスカを見据えてそう宣言をした。 前へ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/377.html
戦うことを忘れた武装神姫 その6 ・・・Dr.CTa。久遠とは大学の同期であり、両人とも腐れ縁を認めている。 Dr.と付くだけあって、所属する会社に於いてはそれなりの地位にあり、特にロボット工学では相当の研究成果を出してはいる才女・・・なのだが、その実は「腐女子」だと陰で囁かれている。 そんな彼女の手元には、サイフォス型の「ヴェルナ」と紅緒型の「沙羅」の、2体の神姫が住み着いている。しかしこの2体、顔が・・・明らかに通常のタイプと違う。 「雨、降ってきたっすね・・・。」 デスクで打ち出されたデータとにらめっこするCTaの脇で、コーヒーの缶に腰掛けた沙羅が、窓の外を見ながら呟いた。 「うむ。確か今朝の予報では、降水確率は70%だったな。」 ちらりと目を窓に向け、再びデータの山に向かうCTa・・・と、彼女の袖をヴェルナが引っ張っていた。 「マスター、そろそろ休憩の時間です。お茶菓子を用意しました。」 「おぉ、ありがと。」 ヴェルナから茶菓子のあんまんを受け取ると、ちぎって沙羅とヴェルナにも分け与えた。 CTaが勤務するのは、通称「ちっちゃいもの研」。体内マイクロマシンなど超小型機器の研究施設である。仕事上のつながり・・・というより腐れ縁の立場を利用されてか、久遠の神姫のメンテナンスもCTaは受け持っている。 顔見知りなのでタダではあるが、その代わり自らの研究材料としての利用もしている。そのひとつが、久遠の神姫にも搭載されている「食事」機能。 「あっちー!!」 渡されたあんまんにすぐかじりつき、餡の熱さに思わず声をあげた沙羅。 「これこれ沙羅、餡は熱いんだから。十分冷ましてからにせぇよ。」 と言いながら、CTaも餡を冷ましている。 「ところでマスター、今日は夕刻より久遠様と会議なのでは?」 一足先に食べ終えたヴェルナは、PDAを操作して予定表を確認していた。 そこには、「久遠・緊急用件@居酒屋・時刻1830」の文字が。 「あっ! 忘れてたっ!! いっけねぇ、何も用意してないぞっ!!」 あんまんを押し込むように食べ、むせ返るCTa。 「マスター・・・。」 その手元からは、沙羅とヴェルナの寒い視線がCTaに向けられていた。 沙羅とヴェルナは、いわゆる「捨てられた」神姫だった。 とある雨の日、久遠がシンメイを連れて買い物に出た帰り道だった。近道でもある河川敷を歩いていた際に、シンメイが消え入りそうな神姫のSOSシグナルを受信、周囲を捜索するとコアユニット、すなわち頭部が無惨にも破壊された 神姫を2体発見する。 それが、沙羅とヴェルナだった。 とても自らの手では修理できないと判断した久遠は、CTaに修復を依頼。コアユニットの修復はCTaも初めてであったようだが、他機種のガワを上手いこと流用し、数日後には見事に美しく修復させた。 当初、久遠が2体とも引き受ける予定であったのだが、情が移ってしまったのであろうか、CTaが自らのサポート用として、引き取ったのである。 「ふぇ・・・へぶしっ! 冷たいっ雨すねぇ。。。」 「おっと、ごめんよ。沙羅は雨が苦手だったよね。」 雨の中、待ち合わせの居酒屋へ急ぐCTaは、肩に乗せていた沙羅に小さな傘を持たせた。と、CTaの持つ鞄から、合羽を着込んだヴェルナが顔を出した。 「待ち合わせ時刻まで、残り6分と30秒です。間に合いますか?」 「だーっ!わかっとるわぃ!だからこうして急いでいるんじゃないかっ!」 「あ、マスター・・・あと20m先なんですが、私の計算ですと・・・」 「うん? なに?」 「工事に伴う歩道上の段差で、おそらく蹴躓い・・・」 どんがらがっちゃ。 ばしゃ、べっちゃり。 ヴェルナの方を振り向いた瞬間。見事、ヴェルナの予測通りの段差に蹴躓き、資材置き場にダイブするCTa。そして水のたまったブルーシートの上へ沈む。 「い、いてて・・・ ヴェルナっ!そういう事はもっと早く言うことっ!」 「も、申し訳ありません!」 鞄から転がり落ちて、ヴェルナは水たまりに填っている。 「ん、んん? あっ!沙羅っ!!」 体を起こしたCTaは、肩に乗せていた沙羅がどこかへ飛んでいったことに気がついた。ずぶ濡れのまま、あたりを見回すと・・・ 「・・・。」 目の前には、気の毒な表情を作ろうとしているものの笑いをこらえているのが一目でわかる、なんとも変な顔付きをした久遠が立っていた。そして彼の左手には、目を回した沙羅が。 「何やっているんだ? いきなり沙羅は飛んでくるし。何かしでかして思わず 投げ飛ばしたんじゃないかと思ったぞ。」 「うるさい。滑って転んだだけだ。」 むくれっ面で、ヴェルナと鞄を拾い上げるCTa。 「いえ、私の不注ぃ・・・むぐっ!」 と、CTaの手の中でヴェルナが何か言いかけたが、CTaは遮るようにヴェルナの口を塞いだ。 「沙羅じゃないけど、あたしも雨は苦手でね。目も悪いしぃ。」 「でも、私が・・・」 と、何か言いたそうなヴェルナを黙らせるかのように、どこからか取り出したタオルに包み込む。 「いんだよ。さぁ、沙羅もいつまでも目ぇ廻してないで。」 そう言いながら久遠から沙羅を受け取ると、ヴェルナを入れたタオルに併せて放り込むと、ちょっと乱暴に、がしがしと拭きあげる。そして。。。 「お前、風邪ひくぞ。」 その脇では、CTaに拾い上げた傘をずっとさし続ける久遠。 「何だよ。別にそこでつっ立っていなくて・・・ひっくしょん!」 振り返った瞬間、CTaは久遠にくしゃみをぶっかけてしまう。 「あ・・・ごめん・・・。」 「・・・。とりあえずこいつらは俺が拭いておくから。お前はそこの中武で服買ってこいや。」 久遠はひったくるようにヴェルナと沙羅の入ったタオルをCTaの手から取ると、代わりに傘を差しだした。 「くっそぉ、こんな事でポイント稼がれるとは・・・。」 ブツブツ言いながらも素直に中武へと消えるCTa。 「全く、素直じゃないんだから。」 ため息混じりにその後ろ姿を追う久遠。 彼の手元では、沙羅とヴェルナがタオルの隙間から顔を出し、ぼそっとため息混じりに呟いていた。 「あーあ、ダメっすねー。 素直じゃないのも、朴念仁なのも・・・」 「お互い様、ですねぇ。これじゃ苦労しますよ、久遠様の4人も・・・。」 そして顔を見合わせて、 『はぁ・・・。』 大きくため息の二人。 マスターの将来までをも心配する、お節介な神姫がいる。 そう、ここに居るのは、戦うことを忘れた武装神姫。。。 ・・・>その7へ続くっ!!>・・・ <その5 へ戻る< >その7 へ進む> <<トップ へ戻る<<
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1509.html
武装神姫…それはテクノロジーが生み出した全く新しいロボットである。 MMSと呼ばれる基本素体にCSCチップを搭載、さらに様々なパーツを使用することで無限の能力を引き出す事ができるのである。 武装神姫と暮らす日常 第三章『ノエルVSクラリス』 瞳を開くと両サイドに2m前後のコンテナの積まれた場所に立っていた。 (ここがバトルフィールドの仮想空間かぁ……感覚は実世界とほとんど変わらないんだ) 『どうクラリス、相手の場所はわかる?』 端末を通して聞こえてくるゆかりの声にクラリスは首を振り答える。 「ダメだね…センサーはジャミングされているっぽいし、直接見ようにもこう障害物が多いとね……」 『それじゃ、私達は完全に後手に回るって事じゃ…』 「そういう事になるね。これだから金持ちは…」 そこまで言った所で、ゆかりの端末とクラリスのセンサーに警告が鳴り響く。 『な、なに…っ!?』 「ミサイル警報ッ方向は…上ッ!?」 言って上を向くとそこには無数の光点が灯っていた。 『クラリス、防御ッ!』 「まったくこれだから金持ちは……ッ」 ゆかりの咄嗟の指示に反応しクラリスは姿勢を低くし全身を護る様にチーグルを構え防御体制を取った。 それとほぼ同時に大量のミサイルがクラリスとその周辺のコンテナへと降り注ぐ。 『―ミギリアパーツGA4チーグルソンショウド28%、ヒジカンセツニキノウフゼン…ヒダリキャクブパーツGA2チーグルソンショウド23%…』 ゆかりの端末から無機質なシステム音が聞こえてくる。 『クラリス、大丈夫っ!』 「う……なんとかね」 防御姿勢を解きながらクラリスは答える。 「しかし、相手も無茶するねー…折角の障害物が木っ端微塵だよ」 今は見るも無残に破壊されているコンテナを見ながらクラリスは言う。 『でも今の状態なら相手の事視認できるんじゃ…』 「…ダメ、まだ砂埃が邪魔で何も見えないよ」 言いながら左右を見るクラリスの前を一つの点が光った。 「何、光った?」 そしてソレはクラリスの真横を通り… 左側のGA4チーグルアームを根元から吹き飛ばしていった。 「なっ……ぐっ」 クラリスはアームを吹き飛ばされた反動で地面を転がるように飛ばされた。 『ヒダリGA4チーグルゼンソン、キノウテイシ…』 『クラリスッ!』 「直撃はしてないからあたしは大丈夫……まったく一撃でチーグルを吹き飛ばすなんてどんなAPよ」 苦虫を噛んだかのような顔をしながらクラリスは言う。 『えーぴー?あくしょん…ぽいんと?』 「違うよ」 『ふぇ?』 本気で分からないと言う顔をしながらゆかりは言う。 『ノエル!折角のチャンスでしたのに何をしているのっ!』 「申し訳ありません、マスター…ですが次は必ず!」 『勿論よ、そんな雑魚さっさと倒してしまいなさい!』 べるのの言葉に対しノエルは全身に装備された武器を構えながら答える。 「って、そんなこと言ってる場合じゃなかった…相手は砲撃タイプみたいだから……」 『ずっと動き回っていれば大丈夫?』 「そういうことにっ………なるねっ!」 言いながらクラリスは横に跳躍する。 次の瞬間クラリスの居た場所にノエルが撃った弾丸が着弾し地面が抉れ飛ぶ。 「ふぅ~…間一髪」 『止まったら的ッ、動き続けながら反撃して!』 「そんなことは……わかってるよっ!」 左手でヴズルイフ、右側のチーグルアームでシュラムの引き金を撃ちつつ蛙の様に跳ねつつノエルの射撃を避ける。 『ノエル!あんな手負いの鼠に何時まで時間かけているの!』 「で、ですがマスター…あれでいて意外と身軽で……」 時折飛んでくる弾丸やグレーネード弾をリアパーツに接続されているシールドで防ぎながら答える。 『言い訳無用ですことよ。…仕方ないですわね、こんな相手に使うのは癪ですけどアレを使いますわよ』 「了解です…マスター」 『弾薬装填!』 「初弾焼夷弾…次弾APFSDS……装填完了」 『相手が着地した瞬間を狙いなさいよ』 「わかっています」 牽制の為の射撃をしながらノエルは言う。 『……今よ!』 「了解…発射ッ!!」 「…ッしまった!?」 着地した瞬間を狙ったかのように一発の弾がクラリスへと向かってくる。 『クラリス、避けて!』 「ダ、ダメ…間に合わ……」 そこまで言った所で弾はクラリスに直撃し、クラリスは炎に包まれ地面に膝を付く。 『クラリスッ!クラリス、返事をしてっ!』 「…………」 『クラリスカツドウゲンカイオンドヲチョウカ…キョウセイシャットダウンチュウデス……サイキドウマデシバラクオマチクダサイ………』 ゆかりの端末から無慈悲な機会音声が響き渡る。 『そ、そんな…このままじゃ狙い撃ちに………』 『その通りですわ』 端末越しにゆかりに対してべるのは言う。 『最早貴方に勝ち目はないですわ、大人しく降参しなさい!』 『くっ…』 『何なら…無防備なあの娘を機能停止に追い込んでさしあげてもよろしいのですわよ?』 べるのの言葉に反応するかのようにノエルは銃口をクラリスの胸部へと向ける。 『………わかった、私の負けよ』 言ってゆかりは端末を操作する。 『マスターユカリ…シアイホウキヲカクニン……Winner Beruno』 「オーナー!何で試合放棄なんて…ッ!」 筐体から出てくるなりクラリスはゆかりに抗議する。 「仕方ないじゃない…あの状況じゃ他に打つ手なんてなかったんだし……」 俯き気味になりながらゆかりは言う。 「まぁまぁ、最初だったんだからそんなもんだよ」 二人の間に入りながら卯月は言う。 「それよりも問題は…あの娘がこれで更に増長しそうなことですね」 卯月の肩に乗っているアキがべるのの方を見ながら言う。 「確かにな…」 「オーホッホッホッホッホッホッホッ、ほんとここには雑魚でノロマな神姫しかいないみたいですわね」 周りを見下すように見ながらべるのは言う。 「なら、今度は私が相手をしましょうか?」 頭に種型ジュビジーを乗っけている少女が笑みを浮かべながら言う。 「…あまり強そうに見えませんけど、まぁいいでしょう。貴方も私の輝かしい戦歴の1ページにしてさしあげますわ!」 笑みを浮かべ少女を指差しながらべるのは言う。 「本当に輝かしい戦歴になるといいですね」 少女は笑みを崩さずに答える。 ―次回予告― 「むー…今回の勝負納得いかないなぁ」 「納得いかないなら修行してリベンジすればいいと思うんだけど…」 「余りそういう暑苦しいの嫌いなんだけどなぁ…」 「我侭…何ならボクが稽古つけてあげるけど?」 「そ、そんなことより予告予告ッ!」 (誤魔化した…) 「次回神姫と暮らす日常『稲が舞う日』お楽しみに!」 (そんなにボクの稽古って厳しいのかな…) 続く 戻る